苦労してないんじゃないの？

川村敏明先生の精神科外来に掛かって１５年の歳月が流れた。「眠れる事は眠れるんですけど、午前２時に起床して、一日中起きているんですよ」「その事を、皆は知っているの？」「ＳＡで言ったら、早坂潔さんに、『川村先生は知っているのか？薬の事は川村先生が決めているんだからな』と言われました」そういうやり取りをして、５年経ったら、睡眠薬の頓服薬が２週間に付き７錠が処方される様になった。それを飲んだら、午前１１時まで眠っていられるという日が出て来た。私の睡眠障害の特徴として、１０時間・１０時間・１時間の不規則な睡眠サイクルになっていた。しかし、それで不幸だろうかと言えば、そんな事はなかった。精神病院に入院していて、時間だけが流れているという人生に比べれば、北海道浦河町は田舎だが、生きているという実感がある。「生きて行く上での当たり前の苦労を取り戻す」川村敏明先生は繰り返した。双極性障害の女性に言われた事も、それに近い事であった。「あなたもべてるの人やな。べてるの人は苦労をしていない」統合失調症になって、何が不幸かというと、人が生きて行く上で当たり前にする苦労を奪われる事である。べてるのメンバーの小川和加子さんという女性と話をした。「苦労してないんじゃないの？」「苦労の種類の問題じゃないんですかね？」「つべこべ抜かすなっつうの」午前１１時まで眠っていても人生だし、午前５時に起床して午前７時から午前９時まで食糧雑貨店のパセオで清掃の仕事をして、最低賃金だから２千円位を稼いでも人生である。