JR日高線は苫小牧駅から鵡川駅を結ぶJR北海道の鉄道路線である。令和3年4月1日に鵡川駅から様似駅までが廃線になり、車がない場合はバスを利用するしかなくなった。私が「おけいちゃん食堂」まで通う途中に、浦河駅という廃線になったJR日高線の駅がある。浦河駅でJR日高線を降りて、寂れ行く商店街を目の当たりにして、「本当にこの町でやって行くのかと思うと、身の竦む思いだった」と向谷地生良さんは著書に書き記している。向谷地生良さんは、青年であった頃の佐々木実さんや石井健さんや服部洋子さん、それに早坂潔さんと一緒にべてるの家で寝泊まりをしていた。彼等は全員が統合失調症という病気を抱えていた。向谷地生良さんは、「朝、起きたら首が取れていた」とか「『手を洗って』って言ったら、『帰れっていう意味ですか?』」と聞き返して来る彼等に、何が起きているかが分からなかった。そんな彼等の眼が輝いた瞬間があった。それは「金儲けしないか?」と言った瞬間であった。昆布作業をやらしてみても3分しか持たなかった早坂潔さんはウルトラマンと呼ばれたが、販売の仕事に適性がある事が分かって来た。それはセールスマンの様にバリバリと売りさばくという事ではなくて、早坂潔さんは自己病名を精神バラバラ状態と名乗っていたが、「ぱぴぷぺぽ状態」という状態になって倒れていると、その場に居た御婦人方が売っておいてくれるという感じであった。どうやったら彼等が仕事が出来る様になるのかを一緒に考えようという事で考え出されたのが「当事者研究」であった。
私が昆布作業をしていた時に、こんな事があった。左側で昆布作業をしていた女性が、2つ左側で昆布作業をしていた女性と、凄い勢いで話をしていた。その中で、「私、人に気遣いの出来ない男性が一番、苦手」という言葉があった。この時に、「黙れ」とか「喋るな」と言ったら喧嘩になってしまう。私は当事者研究で発表をして、今度、そういう事があったら、「Aさん、体調・気分はどうですか?」と聞いて、「そうですか。私の体調・気分は普通です」と言って、信頼出来る人の横の席に席を移そうという事にした。実際に、Aさんと一緒に昆布作業をする機会になった。Aさんが横に来られた時に、妄想っぽい事を言ったら喧嘩になってしまう。物凄い勢いで喋ったら、まずは、「Aさん、体調・気分はどうですか?」と聞いてみようと思っていた。昆布作業が始まり、Aさんの隣の席になった。すると、Aさんが話し掛けて来てくれた。「この前、当事者研究で言っていた事あったでしょ。あれって、私の事?」こういう展開もあるのかと思った。「そうですね。憶えていました?」「あれね、気遣いの出来ない人って言ったのって、あなたの事じゃないよ。Bさんの事だから」「えー、そうなんですか。てっきり私に言われたんだと思って、途中で昆布作業を辞めて帰ってしまいました」Aさんは群馬県の草津温泉で仲居さんの仕事をしていた事があるらしかった。「草津温泉で仲居さんの仕事をしていたんですか?凄いですね!」私はAさんと一緒に昆布作業をする事が出来た。こういうのが「当事者研究」である。統合失調症を抱えている人でも、仕事をしてイキイキと生活する。それが「プロジェクトX」みたいなものである。冬の浦河駅は雪が積もっていて情緒があって良いが、夏は太陽が照り付けていて良い。緑色の草木がキラキラと輝いている。
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